タグ： HELLA

ぼくの名前は「EMMA」。 たぶん、そのはず。 もしかしたら本名かもしれないし、そうではないのかもしれない。 母国は日本のはず。 証拠はないけれど、日本語は話せるし、読み書きもできる。 もし母国が日本でなかったにしても、きっと人生のおおよそをこの国で過ごしているのだと思う。 習得は安易な言語ではないだろうし。 ぼくの自己紹介をしようにも、なにもおぼえていない。 いや、なにも、というのは語弊がある。 一般常識はわかるし、いままで経験してきたことは記憶に残っていないわけじゃない。 ただ、その大半が大道芸に関することで、それだからぼくはますます自分がわからない。 住まいはある。確認した名義はぼくのものなのかまでわからなかった。 職もある。大道芸人――ピエロのことだけれど――として、ぼくはちゃんと仕事をしているらしい。 もしかしたら最初こそどこかに所属していたのかもしれないが、今は連絡が来るとしたら芸の依頼の連絡くらい。 多分、フリーランスというやつなのだろう。 どう生活しているのかはわからないが、貯蓄はあるようでしばらくの心配はないだろうし、仕事もある。 ほんとうに、この体が芸を覚えてくれていてよかった。 ただ、ぼくは漠然と、この世界にはじつはぼくなんて存在しないのではないか、など一丁前に不安になることもある。 喜怒哀楽も乏しいらしいぼくは、ピエロという無口な職も相まって痕跡をあまり残してはくれなかった。 それが、時折、無性に不安になってしまって。 そんなとき、テレビで一つのニュースがやっていた。 自殺か事故かわからない身元不明の不審な死体が大々的に報道されたことで、行方不明届を出していた家族が名乗りを上げたというものだ。 「いいな」というのがぼくの感想だった。 それから 「死んだらぼくのことを誰かが名付けてくれるんだ」とおもった。 思ってしまってからは、どうしようもない不安がまとわりついて、ぼくをぼくたらしめるものがなくなってしまった。 最初は簡単な自殺をためしたけれど、これでは不審死にならない。 これでは名無しのままのぼくになってしまう。 何度も、多くの方法を試しては、「名無し」になることが怖くて中途半端なまま何年もが過ぎた。 ぼくははやく、「不審死」で死んでしまいたい。 そして、名づけが欲しい。 ぼくを、ぼくたらしめてほしい。

※歌詞を引用、及び記載することは禁止となりました(Youtubeや歌詞サイトのURLだけ書くことをお勧めします)。
↑ページ上部へ