タグ： ざいちか 094

「……俺に何か用？」 「アンタ、俺のこと好きだろ？やめとけよな、まじで。」 「それ以上俺に近寄ってみろ、不幸にしてやるからな。」 自称画家。実際のところはフリーター。バイトを転々としており、カラオケ店員やチェーン店のホールスタッフ、コンビニ店員といった接客が多い。多分顔が良いからよく受かるんだろうな。 性格はそんなに悪くない……はず。卑屈で多少荒っぽいところが目立つが、基本的には善人であろうとする。 今一番欲しいものは才能、次点で友達。 幼い頃は、芸能界に憧れていた母親によってモデルや役者などに挑戦していた。しかし、不器用ゆえにあまり芽は伸びなかったようである。どうにか彼にスポットライトの光が当たらないだろうかと勉強や習い事に力を入れたこともあったが、やはりどれも突出することがないまま少年時代を過ごした。母親の憧れはいつからか、彼から弟に託されるようになる。この”弟”というのがとても優秀で、彼よりも6歳も下なのだが、物分かりが良く文武両道な優等生なのである。はじめこそ、重い期待が自身に向かなくなったことに安堵を覚えたものだが、それが無関心だと気付いたときの虚無感は計り知れない。 そんな彼が拠り所としたのが”絵”である。始まりは美術部に所属する生徒の描いた絵だった。あまりにも魅力的だったため描いた本人に話しかけてみたところ、その生徒からの勧めで自身も描き始めたのである。二人は親友とも呼べるほど仲良く見えたが、楽しい時間はそう長く続かなかった。彼が生徒から貰った絵が偶然にも弟の目に留まり、汚されてしまったのである。生徒には丁寧に経緯を説明したが、結局理解されることがないまま決別している。あまりの悲しさと無力さに自身の身体を傷つけるほど、彼はひどく絶望した。『自分の身体を傷つける』という選択肢が生まれた瞬間だった。 大学生になっても彼は絵筆だけは手放せなかった。1年かけて描いた絵がまた弟の手によって汚されても、勉強するのが馬鹿馬鹿しくなって大学を中退してしまっても、自傷が過ぎて死の淵を彷徨っても、それでも描き続けるのだ。だって、あの生徒がくれたもので、唯一自分の手元に残った宝物だから。

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