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デカルト（被験体識別番号：ESD-0313） 犬種：セントバーナード 某生物研究所では、倫理を逸脱した極秘実験——「動物の高度知能化プロジェクト」が進行していた。 その目的は、動物に人間並みの知性と自己認識能力を付与し、未知の可能性を探ることにあった。 Enhanced Specimen Dog-0313は、その実験の成功例のひとつである。 研究者たちは彼の脳に微細な神経接続強化ナノマシンを埋め込み、さらに微細な電流刺激によって脳神経を活性化。 これにより、ESD-0313は驚異的な論理的思考能力と記憶力を獲得した。 ただし、この強化は遺伝子変異を伴うものではなく、あくまで個体としての能力開発であり、その知能は子孫に引き継がれることはない。 実験が進むにつれ、ESD-0313を含む成功被験体たちは、人間と同等以上の教育を受けることとなる。国語、数学、物理学、社会学……。 幅広い知識を授けられた彼らの中で、TSD-0313は特に哲学に強い関心を示した。 「人間とは何か？ 何を望み、どのように生きるのか？」 彼は、知性を与えられた存在として、創造主たる人間を上位の存在として認識し、憧れを抱くようになった。 しかし、多くの哲学書を読み進めるうちに、その憧れは次第に疑問へと変わっていく。 「自分は、ただの研究材料なのか？」「知能を持つ存在として、人間と自分は何が違うのか？」「自由意志とは何か？」 やがて、彼は研究所の会話を盗み聞きし、 「遺伝しない能力開発ではコストが回収できないため研究は凍結、被験体は処分される」と決定されたことを知る。 ESD-0313は静かに考えを巡らせた。彼の知能は単なる実験結果に過ぎないのか？ もしそうなら、それを決定するのは彼自身ではないのか？ 結論は明白だった。彼は試験体であることをやめ、「自分という知的存在の価値を見極める」ことを決意した。 そしてある夜、研究所の鉄製の扉を押し開き、夜の静寂へと歩み出す。 「この扉を出たとき、私はESD-0313という無機質な記号ではなく、意志を持つ存在——『デカルト』となるのだ。」

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