タグ： 案山子ダブクロ

ある研究者が居た。この世のすべては人類の為にあると信じ切った男。ファルスハーツに身を置くべき欲を持ちながら、全ては人類の秩序の為と、UGNを信奉する――そんな彼が一時の興味が為に手を掛けた実験、研究。大規模な設備を新たに増設することなく、目的に即したレネゲイドビーイングを発生させる実験。中でも彼は、元となる素体が必要ないオリジン・レジェンドに目をつけた。 高濃度のレネゲイドウィルス、そして、共通の幻想が容易く蔓延する環境――生徒教師の大半がオーヴァードである学園に於ける都市伝説の流布。実験に必要なのは、噂を流布する労働力のみ。安価で都合の良い魔物を生む実験。 実験は成功を収めた。複数のオリジン・レジェンドを発生させ、それは暫くの間観察され――実践には投下されなかった。学園内、島の中でしか形を保つことが出来なかったのである。 「私はこれ以上、彼らを観測し続けることに意義を見出せないと結論付けました。しかし、飼い主の手を離れた獣など、危険極まり無く、また、哀れです。ので」 「全て破棄することにしました。ご安心下さい、噂はそれを否定する噂を流せば簡単に消えます。あとは、直接接触を持った生徒数人に記憶処理を行えば事足ります。」 彼にとって、限られた環境下、永遠に表立つことの無い世界でのみ力を持つオーヴァードなど、不要以外の何物でも無かったのである。 多くのレネゲイドビーイングが形を保つことさえ叶わず消えていった。彼らと友情を育んだ生徒は、記憶を消されて日常へと戻る。 そんな中で。只、一体。生き残ったレネゲイドビーイングが彼である。 人の影に潜む怪物の噂。影から影へと移動し、人に取りつく魔物の存在。それは、ただ一度たりとも人を食わなかった。ただ一度たりとも、人々の前に姿を現さなかった。故に、影への被潜伏者……その生徒の特定が叶わず、記憶処置が行えなかったのだ。 影から影へ。彼の存在を知り、そして、誰にも明かすことのなかった者たち。ひと時の力を得、ひと時の夢に酔ったものたち。身を滅ぼしていった者たち。生徒会、番長連、一部の名も無い生徒達の間でのみ、彼の存在は実在として語り継がれる。 ――シャドウ・バディ、と。

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