タグ： 殺人鬼の街

両親仲は悪く、母親は毎日泣いていた。幼い頃に憧れた女性の結婚式。彼女は病弱だったから、そのあとすぐに死んでしまった。その死に顔があまりに幸せそうで綺麗だったから、きっと結婚式は幸せなもので、女性が一番綺麗な瞬間なんだと思った。 美容師をしていた真琴は、大切な友人である女性に結婚式のヘアセットを頼まれた。そっと柔らかいものを包むような幸せそうな、その表情に、真琴はそれを快諾する。 いろいろな話し合いをしていくうちに、お色直しのドレスも作ることになった。花嫁との打合せの機会はどんどん増えていく。不安や希望。期待や秘密、不満。サイズ合わせや、要望のカウンセリングをしながら、たくさんの話を聞いた。 ある日、彼女は泣き腫らした目で真琴の店にやってきた。小さなことでの喧嘩をしたらしい。どうしていいのかわからない、本当に結婚してもいいのか。目を真っ赤にした彼女を、真琴は優しく慰めた。 「大丈夫。僕が必ず世界で一番綺麗で幸せな花嫁にしてあげるから」 結婚式当日。花嫁はとても美しかった。誰もが羨む結婚式だった。真琴は参加者としても出席し、その様子を見守り続けた。 披露宴を終え、主役は退散する。二次会の案内をホテルの進行係が伝える中、ひっそりと花嫁は姿を消す。 花嫁がいない。騒然とする控え室。それは二次会会場にも伝えられた。どこを探しても花嫁はいなかった。その場は混乱に満ちていた。 不躾な憶測すら飛び交い始めた頃、花嫁は見つかった。 婚式を挙げたホテル内の小さなチャペル。十字架に背を預けるようにして項垂れる花嫁は幸せそうに笑っていた。飾りの施された胸元から花開くように血を滴らせ、それはそれは美しい姿だった。 彼女のことを経て、真琴はこれが自らの使命だと自覚した。 あらゆることを習得した。花嫁をより美しく飾ること。多くの花嫁を幸せにするために工夫を凝らすこと。 どこから伝わったのか、花婿から依頼されることもあった。彼は知らなかったのだ、人を疑うことを。 「いらっしゃいませ。ああ、そんなに緊張しなくていいですよ。僕が必ず、貴女を世界で一番綺麗で幸せにしてあげますから」

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